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インタラクション2024冬「研究者紹介~大型低温重力波望遠鏡KAGRAの万能型研究者、牛場先生~」②

皆さん、こんにちは!
カミオカラボのサイエンスコミュニケーター(SC)、山田です!

今回は前回の研究者インタビューの続きの投稿です。
まだ、前回のインタビュー内容を見ていない方はそちらもぜひご覧ください。

今回はKAGRAの研究に関する質問に答えていただきました。
研究内容に関してはロングインタビューになっていますので、2回に分けて投稿させていただきます!
KAGRAの研究設備や重力波研究について詳しく教えていただきましたのでとても興味深い内容になっています!

是非ともご覧ください!

SC:KAGRAで観測する重力波は地球自身の重力の影響は受けないのですか?(まさふみ)
先生:重力波自体が影響を受けるというより、観測には重力の影響はでてきています。例えば、鏡が吊るされているので鏡の周りに置いてある重たいものが地震とかで揺れてしまうと重たいものが動いたことで鏡が重力によって引っ張られたり遠ざかったりして鏡が動いてしまいます。これは重力波の信号とは見分けるのが非常に難しいのでそういうことが起こってしまうと重力波を見つけることができなくなってしまいます。ローカルな信号は例えば、KAGRAであればKAGRAの検出器にだけ起こることで、LIGO (アメリカ)とVirgo (イタリア)ではKAGRAのローカルな信号は距離があるので影響しません。なので、KAGRAとLIGOとVirgoで同時に同じ信号が来たという事が重力波の証明になります。なので、LIGOは最初から1000km離れたところに2台建設していて、VirgoとKAGRAはほかの検出器と協力する前提で作っています。

SC:サファイア鏡の冷却方法、冷却にかかる時間、温度の維持はどのようにやっているのでしょうか?(スピロピラン)
先生:KAGRAの冷却方法は機械式冷凍機と言ってエアコンの強力版といった感じです。気体を圧縮したり拡張して熱交換をするというシステムです。それ以外にも液体の窒素やヘリウムを使って冷やすこともできるのですが、KAGRAは地下に作っているのでガスが漏れてしまうと窒息の危険等があるので、ガスを使わずに機械式の冷凍機を使って冷却しています。なので、エアコンと基本的には同じ原理です。エアコンの場合は空気を冷やして送り出すのですが、空気の中には当然水分がありますし、もし水分が無かったとしても空気は主成分が窒素なのでマイナス170度くらいになると液体になったり、凍り付いてしまうので冷やすガスにヘリウムガスを使うことで4Kくらいまで冷やすことができるシステムを使って冷却しています。
冷却にかかる時間はKAGRAの冷凍システムを全部同時にオンにすると30日ほどで冷却が完了します。しかし、それをやってしまうとKAGRAの鏡は真空パイプの中にあるので、ものが冷たくなると真空パイプの中に残っている気体分子が冷たいものにくっ付くクライオポンピング効果で、気体分子が鏡の表面についてしまうと鏡の性能を悪化させてしまいます。なので、KAGRAでは一つの鏡を冷やすのに6台の冷凍機を使用しているのですが、全部を一斉につけるのではなく、まずは鏡の外側から冷やして、外からくる気体をそこに吸着させて、次に鏡の周りを冷やして鏡の周りの空気を除去して、ほとんど気体分子がなくなって最後に鏡を冷やすという段階を踏んで温度を下げています。そのようにやるとトータルで冷却に2か月くらいかかります。
温度の維持は機械式の冷凍機なので、それがずっと動き続けています。

SC:重力波が来ないときは何をしていますか?(ひろ)
先生:観測期間中で重力波が来ないときは検出器が観測モードになっているので我々はいじったりはできません。なので、基本的には観測データを見るというのがメインの仕事になっています。前回の観測でやっていたのは、重力波検出器の観測モードから観測できない状態になることを「干渉計のロックが落ちる」と呼んでいるのですが、そうなったときになぜそのような状態になったのか調べます。それを調べておくと原因がわかるので観測が終わったときや観測中に行う1週間に1回のメンテナンスの時に悪かった部分を直すことができて検出器の性能が良くなるのでそのようなことをしています。実は安定に動いているときはあまりできることが無いのです。前回の観測の時は地震が多かったのでそれが原因だったことが多かったです。地震以外にも鏡の角度制御が上手くいかないことがあったのですが、それは観測が始まって1週間くらいで見つかったので修正することができました。
SC:鏡の角度制御はどのくらいの単位でやっているのですか?(SC)
先生:マイクロラジアンという単位です。

SC:重力波観測器の感度を上げるとより遠くの重力波を観測できると聞いたのですが、今よりも感度を上げるにはどんなことをすると感度が上がると考えられますか?(承認欲求)
先生:これは、いろいろやれることがあるとわかっていて、まず一つは光が粒(量子)であることによって感度限界が決まっているので、それを上げるために一つはレーザーのパワーを上げるという事が有効だとわかっています。現在のKAGRAでは1Wくらいのレーザーを使っているのですが、LIGOとかだと70Wくらいのレーザーを使っていてKAGRAもいずれはそのくらいの強さのレーザーを使う予定なので、それができると感度が上がるとわかっています。
※SCの補足
「光が粒(量子)であることによって感度限界が決まっている」というのは光が光子という粒の性質を持ちこの光子の発生や吸収は量子論的な確率分布で表されるからです。簡単にいうと一定のパワーのレーザーでも出てくる光子の数が多かったり少なかったりすることがあります。これを“ゆらぎ”といいます。レーザーのパワーが低いと重力波が到来することによって出てくる光子の数が全体的に少ないので一つ一つの光子の影響が観測結果に大きく出てしまいます(後述する強度信号とノイズの比に影響)。逆にレーザーのパワーが大きければゆらぎが発生しても正常に発生する光子の量も多くなるので個々の光子のゆらぎの影響は少なくて済みます。
高精度のレーザー干渉計には周辺の電子機器の影響による電磁場のゆらぎや熱雑音、電子回路のノイズなどが観測したいレーザーの強度信号のノイズ(背景雑音)になります。これらのノイズは測定器が機械である以上、一定の値で存在します。レーザーの強度が高ければ(光子量が多ければ)観測したいレーザーの強度信号とノイズの比は強度信号が大きくなるため、レーザー干渉計の精度が良くなります。
SC:現状いきなりLIGOとかと同じ強さのレーザーにはできないのですか?(SC)
先生:LIGOと同じレーザーにするには、今使っている根元のレーザーがそんなに強いパワーを出せないのでそのレーザーの交換を次の観測に向けてやっているところです。今のレーザーだと10Wくらいまでは上げられるのですが、根元のレーザーが70Wまでは上げられないという事です。
あとは、最近LIGOとVirgoが導入したスクイージングという技術があってそれを使うと感度が上げられるとわかっています。日本の国立天文台のTAMA300という検出器のファシリティ(設備)を使って研究されているフィルターキャビティというものがあって300mの光共振器を使って、重力波の感度を上げることができるという実証実験が成功したのでLIGOやVirgoで導入されていて、KAGRAにも導入予定です。まだKAGRAでは導入できていないですけど、これを導入すると感度が上がると考えられています。
※SCの補足
スクイージングの原理などは難しいのですが、簡単にいうと量子論的なノイズをコントロールする技術です。高い周波数のノイズと低い周波数のノイズをどちらかを大きくしてどちらかを小さくするということができます。そして、TAMA300で研究されたスクイージング技術は高い周波数のノイズでは位相のゆらぎを抑えて、低い周波数のノイズでは振幅のゆらぎを抑えることで、すべての周波数で量子論的なノイズを減らすことに成功しました。
SC:KAGRAでの導入はどの部分で難しいのでしょうか(SC)
先生:KAGRAは地下に建設されていて、スペースが限られているので、装置などをどのように配置するかを考えて搬入するのが非常に難しいです。LIGOやVirgoは地上にあるのでファシリティを増設するのも比較的行いやすいのですが、KAGRAは地下にトンネルが掘られて装置が置いてあるので、狭いからと言ってトンネルを広くしようと発破してトンネルを壊すわけにはいかないです。ただ、ファシリティを導入するだけなら作って設置してしまえばいいのですが、設置した場所が狭くなるので、今後の研究や機材搬入などの作業に支障がないように慎重に考えて設置するのが難しいです。

東京大学宇宙線研究所 重力波観測研究施設
KAGRA Yアーム部分 

今回は、KAGRAの研究についてのインタビュー前半でした!
KAGRAの研究設備について詳しく知ることができました!

次回の投稿はKAGRAの研究についてのインタビュー後半です!
重力波研究の今後の目標について聞きました!
是非ともご覧ください!

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