インタラクション2023秋「研究者紹介~スーパーカミオカンデのスーパー研究者関谷先生~」③
皆さん、こんにちは!
カミオカラボのサイエンスコミュニケーター、山田です!
今回はスーパーカミオカンデの研究者のインタビューの第3回目です!
まだ第1回と第2回のインタビューを見ていない方はそちらもぜひご覧ください。
今回は関谷先生にスーパーカミオカンデの研究に関する質問に答えていただきました!
今回の研究に関する質問には関谷先生にとても詳しいエピソードを話していただきました!
貴重な話がたくさん出てきますので、是非ともご覧ください!
Q スーパーカミオカンデで使っている超純水は循環して超純水の状態を保っているとのことでしたが、補充はせずにずっと使い続けているのですか?(質問者:無記名)
A 基本的にはそうです。蒸発することもあるので補充することもありますけど、基本的にはないです。
Q なぜ、ガドリニウムを選ばれたのですか?ガドリニウムより観測に向いている物質はありますか?(質問者:無記名)
A 僕らがやろうと思っている実験にはガドリニウムが一番向いているので使っています。我々が使える武器は元素の周期律にある118個の元素の中から使える物質を選ぶしかないです。ガドリニウムはその中で一番中性子を吸いやすく、中性子を検出したらスーパーカミオカンデの能力が上がるという事がわかっていたのでガドリニウムを選んで、いかに水に入れるかという研究を始めて実現しました。
Q ガドリニウムを入れるには難しいことがありましたか?(質問者:SC)
A ガドリニウムは基本的には単体の金属なので、水には溶けません。なので化合物にしてイオンにして溶かす必要があります。ガドリニウムは3+のイオンになるのですが、それと合うためには一般的には硫酸ガドリニウムとか硝酸ガドリニウムとか塩酸ガドリニウムというのは簡単な物質なので、その中で何が使えるのかを調べました。先ずは一番身近な塩酸との化合物の塩酸ガドリニウムですが、スーパーカミオカンデのタンクはステンレスでできているけどさすがに酸で錆びちゃうのでダメ。最初に塩酸ガドリニウムを小さなセットアップで試したらあっという間にステンレスが錆びてダメになったんですよ。次の硝酸ガドリニウムは硝酸イオンが厄介で、水の中に硝酸が溶けると実は350nmあたりより短い波長の光がとおらなくなるので、チェレンコフ検出器の中に硝酸イオンを入れるとダメだという事で硝酸ガドリニウムはアウト。あとは硫酸ガドリニウムかなと思って硫酸ガドリニウムを入れたらOK。ただし、普通に売っている硫酸ガドリニウムだと不純物が多すぎでした。ガドリニウムがレアアースなので放射性不純物が含まれていて99.99…%の純度のものを買ってきても我々の用途には馴染まなかったです。さらにそこから純度を高めるという事が大変でお金もかかったということですね。
Q 純度を高めるためにどんな事をしましたか?(質問者:SC)
A 基本的にはPHコントロール、抽出を何回もするというのを繰り返してほかの物質を落としていって純度を高めます。トータルで40トンの硫酸ガドリニウムが必要なので自分たちがビーカーでやるレベルではなくて、レアアースの大きな会社にプラントを作っていただく必要がありました。
Q スーパーカミオカンデにはいろんな研究があるそうですが、先生が一番注目している研究は何ですか?(質問者:サンタ)
A ガドリニウム入れた理由は超新星爆発のニュートリノなので、今はそれに僕は一番注力してやっています。超新星爆発のニュートリノをとらえるためには超新星爆発が近くで起こってくれないとだめです。でも待っているだけでは研究者として面白くないので、過去に超新星爆発が起きた時にニュートリノがまき散らされて、宇宙にどんどん積分されていて、それをとらえるのがガドリニウムを入れた目的です。超新星爆発が起きた時よりもエネルギーは下がっているし、拡散しているので観測は難しくて今まで見つかっていません。ニュートリノは反物質を含めて6種類あって、水が観測ターゲットとして得意なのは反電子ニュートリノです。これに対して感度を上げるためには中性子をとらえることが必要でガドリニウムを入れました。反電子ニュートリノとそれ以外のニュートリノを含むバックグラウンドと区別ができるようになります。反電子ニュートリノが来ると陽子と反応して中性子とチェレンコフ光が出て、その中性子がガドリニウムに吸われてもう一回チェレンコフ光がでるので、反電子ニュートリノが来たときは連続的に2つのチェレンコフ光が出てくるようになるので、バックグラウンドと区別できるようになり、過去の超新星爆発に対しての感度が上昇したはずです。そして2020年にガドリニウム入れ始めて去年濃度を3倍にして観測を続けています。もともとバックグラウンドとそのシグナルが拮抗するくらいの感度なので、すぐにわかるものではなくて5年とか6年とか観測して統計データを溜めたらエクセス(シグナルの数がバックグランドの数より増えること)が見えるという予想です。そして今そういう時期に入ってあと数年間観測したら統計的に何か言えて、非常にエキサイティングな結果が見られるのではないかと。
Q ハイパーカミオカンデではガドリニウムは引き継がれますか?(質問者:SC)
A 今のハイパーカミオカンデでは考えていませんが、ガドリニウムを入れると感度が良くなるのはわかっているので、当然将来考えることではあります。スーパーカミオカンデで0.03%の濃度にするのに40トンの硫酸ガドリニウムを溶かすのですが、ハイパーカミオカンデでその濃度にするための硫酸ガドリニウムを用意するとなるととてもコストがかかり、今超純水の装置を作るだけでもめちゃくちゃコストがかかって、建設が大変な真っ只中なので、検討するに至っていないです。しかし、スーパーカミオカンデでうまくいけばハイパーカミオカンデでもやりたいという予算申請ができます。
Q この実験の最終的な終わりはどのような結果が得られた時ですか?(質問者:さあや)
A もともとは陽子崩壊を探るためにカミオカンデシリーズをどんどん大きくしていてハイパーカミオカンデで見つからなかったら終わりがないですかね。あとは陽子崩壊を目標にやってきたけど、カミオカンデはニュートリノ研究が得意だとわかったので別の研究が展開しているし、研究を続けていくと新たな研究が見つかるのがこの世界の話です。今考えていることも5年10年経ったら変わってそっちを真剣にやっているかもしれないし、終わりは見えないと思います。
今回はスーパーカミオカンデの研究に関するインタビューの内容を投稿しました。
研究に関する貴重なエピソードを聞くことができました!
この記事を読んでいただければスーパーカミオカンデの研究『スーパーカミオカンデGd(SK-Gd)』について詳しく知ることができると思います!
最後の第4回では関谷先生に研究とは直接関係ない部分の質問に答えていただきました!
(例:研究者は占いとか信じますか?など)
次回も是非ともご覧ください!