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「ダークマター」を探していたら「アクシオン」の兆候??

こんにちは!高知尾です。

新型コロナウィルスによる大きな被害を受け、先月から徐々に経済活動を再開し始めているイタリアですが、昨夜ワクワクする嬉しい知らせが舞い込んできました。

宇宙に満ちる仮想上の粒子であるダークマターを探索する国際実験プロジェクト「XENON(ゼノン)」が、これまた別の仮想上の粒子「アクシオン」を観測したかもしれないという知らせです。2016年から2018年に観測したデータを調べた所、既知の粒子では説明できない超過分が見つかったということです。1年以上の間、ミスや実験エラーも含めてありとあらゆる可能性を詳細に調べ上げた結果が3つの可能性とともに論文にまとめられました。
まだ1つの可能性に絞る作業が残されているわけですが、XENONグループではさらに大型化された次世代観測装置の稼働が今年後半に控えており、なにやら期待しても良いようです。このプロジェクトには日本のチームも参加しています。

3つの可能性については後々触れるとして、まずはここまでの文章の中で少しもやっとする言葉「既知の粒子では説明できない超過分」をもう少しだけ噛み砕いて説明してみます。

「既知の粒子では説明できない超過分」とは

XENONプロジェクトが用いる観測装置「XENON1T」は、キセノン(周期表の一番右っかわにあるやつ)という元素が3.2トン(1トンじゃないのか…)容器に入れられた構造です。もしダークマターがキセノンの原子核と衝突すれば、決まった明るさで発光します。でも、現実には環境中の放射線などが侵入しても発光してしまいます。したがって、得られるデータは既知の放射線などによる発光(バックグラウンドという)と、捉えたいダークマターによる発光(シグナルといいましょう)がまぜこぜになった状態となります。

ただ、もし観測装置が捉えてしまうバックグラウンドの量を正確に把握していれば、シグナルはバックグラウンドに上積みされる形で見えてくるはずです。これが、「既知の粒子では説明できない超過分」です。

世界中で行われるダークマター探索

さて、キセノンを使ったダークマター探索は世界中で行われています。何せ、ダークマターは宇宙全体で私達が知っている粒子の5倍を占める存在感を持っており、発見されれば間違いなく宇宙論、素粒子論に革命を起こすので放っておくわけにもいきません。

ところが「ヤツ」はそう簡単には尻尾を掴ませてはくれません。
これまでにイタリア、アメリカ、中国、そして日本で行われたキセノン式観測方法では、理論が正しければ見つかるであろう感度に到達しつつあるにも関わらず、どの実験プロジェクトでも兆候が見えません。研究者たちは、少し閉塞感を感じる状況にありました。

もうひとつの可能性

そこで、ここ数年は観測のアプローチ方法が拡げられる傾向にあります。
冒頭に述べたように、もともとはダークマターがキセノン原子の中心部分である「原子核」に衝突することが想定されていました。しかしながら、「ダークマター」に囚われ過ぎなければ他の可能性も出てきます。それは、原子のまわりを回る「電子」と未知の粒子が反応する可能性です。幸いなことに、XENONプロジェクトは原子核反応と電子反応をきれいに区別することを得意としています。これまでは捨てるべき対象だったものが、ワクワクする研究対象になり得るのです。

そして、今回公表された結果では電子反応において統計的にはかなり大きな「超過分」が観測されました。バックグラウンドとして予想される発光が232回なのに対して、実際には285回発光が起こっていました。

では、この53回の超過分の可能性について紹介していきましょう。論文では主に3つの可能性に触れられているのでした。このうち、2つはとてもワクワクするもの、もう1つはあまりワクワクしませんが研究業界としては大きな知見となりうるものです。

1つ目の可能性 トリチウム

まず1つ目は、キセノン中に微量に含まれている可能性のある「トリチウム」からのベータ線による発光です。トリチウムと言えば、日本では原発の汚染水問題で出てくることが多いですが、水素原子の原子核の部分に中性子が2個余計にくっついたものです。既知の物質であり、自然界に存在するものです。シグナルのじゃまになるバックグラウンドということになるのでワクワクはしません。ただし、業界としては観測技術がトリチウムが見えるほどに高感度化したことの証明とも言えます。また、今後トリチウムを取り除く必要性を迫られるため今後の観測のためには重要な知見です。

2つ目の可能性 アクシオン

2つ目が、アクシオンという新粒子です。これはワクワクします。宇宙観測から要請されたダークマターとは異なりアクシオンは小さい粒のふるまいを記述する素粒子物理学の分野から提案されたものです。現在の素粒子理論のほころびのひとつである強い相互作用の対称性を説明するために導入されました。これが太陽の内部で作られていて、地球にも降り注いでいるのを観測したという説です。これが本当であれば、素粒子物理学でのブレイクスルーになる可能性があります。ただし、太陽で作られているという説なので宇宙の誕生初期から存在したはずのダークマターを説明することはできません(太陽はほんの46億年前に誕生した新参者)。ところが実は、アクシオンは今のところ複数のタイプが存在しても良いということになっています。そのため、もしかしたらあるタイプのアクシオンはダークマターを説明できる性質を持っている可能性が開けてきます。

3つ目の可能性 ニュートリノの磁気モーメント

3つ目が、みんな大好きニュートリノがこれまで知られていなかった新しい表情を見せてくれた可能性です。ニュートリノは電気的性質を持たないので他の粒子とめったに反応しません。ところがニュートリノが「磁気モーメント」という性質をわずかにでも持っていると、ニュートリノが想定以上に電子と反応している可能性が出てきます。そのために、発光量に超過分が見えたということです。この場合も素粒子物理学に大きなインパクトを与える発見となります。

さぁ、真相はこの3つの中にあるのでしょうか?それとも全く別の可能性もあるかもしれません。

興味のある方はぜひ、リンクから論文を覗いてみてください。

13ページ目に4つのグラフが載っています。ここで紹介した3つの可能性に対して、予想される発光数と実際のデータを重ね合わせて図示したものです。確かに、太陽アクシオンの場合が一番キレイに重なっているように見えます。

ただ、何かしらの発見と言うためには他の2つの可能性を排除し、さらなる観測データが必要になってくるようです。いずれにしても、今後の続報に注目です。

ダークマターについてさらに知りたい方はぜひ、当館が配信するYouTubeチャンネルをご覧ください。たまたま2週連続でダークマターを扱っているところでしたので、下に貼っておきます。

それでは!


ヘッダー画像クレジット the XENON collaboration



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