窓を大きく開いてみたら
こんにちは。サイエンスコミュニケーターの高知尾です。今日は科学とは関係ないお話です。
僕は1年と少し前に飛騨市神岡町に越してきました。街の自慢のひとつは近くに温泉があることです。神岡町から隣町までは3方向に道が伸びていますが、どの方向に車で進んでも30分以内には温泉に浸かることができます。余裕があるときはさらにその先に進めば別の温浴施設も選択肢に入ってきます。実は、僕がこの街で暮らすことを決めたひとつのポイントでもありました。温泉に浸かるとリラックスできますし、集中力が上がって時には新しいアイディアが生まれることもあります。平均すると週に一度は通っていたのではないでしょうか。
ところが、COVID-19の感染が拡がってからは温浴施設もその多くが閉鎖しています。家の湯船ではなにかが物足りない。何が物足りないんだろうと考えていました。広い浴槽では手や足を思いっきり伸ばせるので身体的なリラックス効果を与えてくれそうです。ほのかな硫黄臭による刺激も好きです。鳥や虫の鳴き声が聞こえたり、目の前に大自然が広がっていれば言うことはありません。
ただ、もうひとつ自分にとって大事だったことに気が付きました。ほとんどの温泉にあるもの。それは吐水口からジョボジョボと流れ出る水の音です。
そんな折、家に閉じこもる自粛連休に突入しました。5月初めは全国的にも今年一番の暑い日でした。そこで自室に外気を入れるため部屋の窓を大きく開け放ちました。すると、吹き込む風に乗って遠くの方から微かに水の音が聞こえるではありませんか。
…ジョボジョボ…ジョボジョボ
住宅に阻まれて視界には入ってこないものの、考えてみるとたしかにその向こうには街を貫く高原川が流れているのです。僕はそのことに1年以上も意識を向けずに生活してきていました。
ここ数日は、窓を少し開けて水の音を聞きながら本やパソコンを広げています。外出自粛生活がもたらしたひとつの嬉しい気づきと考えると、少し豊かな気持になりました。
温浴施設が再開するまではもう少し辛抱のようです。それまではジョボジョボ音を聞くために、風呂場に循環式のポンプでも取り付けようかと構想中です。