ニュートリノ研究は何の役に立つ?

         
 こんにちは。カミオカラボスタッフの古宿博史です。今回は、ラボに来て下さった方々からのよくある質問について、少し書いてみたいと思います。

 老若男女を問わず、大勢のお客さまが鉱山の地下にあるスーパーカミオカンデのスケールの大きさや光電子増倍管の数の多さに驚かれ、興味を持って下さいます。そして、「ニュートリノとは物質を構成する最小単位の素粒子の一種です。宇宙に普遍的に存在し、私たちにとってなじみのある原子よりとても小さくて軽く、あらゆる物をすり抜けてしまいます」などとスタッフが説明しますと、「ふーん。難しそうだけど、とどのつまり、ニュートリノ研究は何の役に立つのですか?」とよく質問されます。
 そんな時、私は「いまのところ、何の役にも立っていません。ただ、宇宙に物質がどうやってできたのか、素粒子の仕組みはどうなっているのかなどを知る手掛かりになります」と言下に答えることにしています。たいていの方は「え、そうなの」と半ばあきれたような表情をされます。中には「税金の無駄遣いだ。学者の道楽」と厳しく批判される方がある一方で、「ロマンがあるし、大いに結構。基礎研究は大事なことで目先のことばかり考えていては面白くない」とニュートリノ研究にエールを送って下さる方もいます。
 素粒子物理学に限らず、科学を含めてあらゆる学問の目的は真理の探究にあります。「役に立つ」は科学技術の分野で議論されるべきものだと思います。
 ひとつ想像してみてください。もしも誰かに「あなたは何の役に立っているのですか?」と聞かれたとしたら、あなたは何と答えますか。随分、失礼な質問ですよね。人間は一人一人がかけがえのない存在です。ですから、「答える必要はないし、役に立とうが、役立たずだろうが大きなお世話」なのです。