人間アバターロボットとVR旅行
ニュートリノ!サイエンスコミュニケーターの高知尾です。
すでにYouTubeをご覧になっていただいた方もいらっしゃると思いますが、先日リモートで旅行を楽しむ新しい方法を試してみました。
動画はこちら!
今回、参考にさせていただいたのはデンマーク自治領のフェロー諸島で行われたこちらの取り組み(残念ながら現在は募集していないようです)。
専用のコントローラーで現地の人を動かすとともに、現地の人の頭部に取り付けられたカメラ映像を見ることで、あたかも現場にいるような感覚に浸ることができるというものです。
確かに画像を見る限りフェロー諸島は起伏が多く、ロボットがスムーズに動くのは難しそうなので、人を動かしてしまうというのも納得です。
ということで、感化されて、カミオカラボでもやってみました。
今回、初のユーザーとしてご協力いただいたのはアスナロサイエンスというチャンネルでYouTube動画を配信されているマユコさんです。
マユコさんには、事前にscratchで作ったコントローラーを渡していました。
「(前に)進む」というボタンの他に、「右を向く」や「アクション」、「ジャンプ」などのボタンを用意しました。
「進む」のボタンを押すとまず、高知尾の声で事前に収録した「進む」という音声がマユコさんのパソコンのスピーカーで鳴ります。その音をパソコンのマイクが拾って、オンライン会議システムZOOMを通じてカミオカラボにいるアバターロボットに扮した高知尾が装着しているイヤホンで音が鳴り、高知尾の鼓膜を震わせます。鼓膜の振動は小骨の振動となって内耳へと届き、有毛細胞で神経伝達物質が放出されると電気パルスが生じて脳を刺激します。最後に脳から出た命令が足の筋肉に伝わり、足を動かすそうです。複雑ですね。
ちなみに、「ジャンプ」ボタンは必要ありませんでした。たぶん、僕自身が自身の運動能力を過大評価したために3秒間くらい上下するイメージでいたのですが、実際には0.5秒以下だったし、頭に付けた30fpsのカメラでは残像しか映りませんでした。
こだわった点があります。人間アバターロボットの胸の位置にモニターを付けたことです。これによって、ユーザーであるマユコさんを第三者が認識してコミュニケーションをとることができます。
ただ、ここにも改良すべき点があります。それは、カメラを頭につけたことでした。解説役の佐古さんは画面に表示されているマユコさんに向かって話してくれたのですが、マユコさんにとっても、僕にとっても目線が合わないので会話している感覚がいまひとつでした。
まさかペッパーくんの気持ちを理解することになるとは思いませんでした。
「アクション」というコマンドとともに、口頭で指示を与えることで少し複雑な操作をすることができる仕様にしました。例えば、「目の前の展示をもっと近くで見せて!」とか展示を体験するために「右手を上げて!」とか「ハンドルを回して!」とかです。単純な動作は確かに問題なくできることがわかりました。
一方で、「左上から降ってくる青いニュートリノを右手でタッチして、そのすぐ後に左手で下から出てきたやつを…!」なんていう高速で動作する必要があるものについては、「無理」でした。
そんな感じで、いろいろと制約はありましたが、新しい発見もありました。遠隔でもテレビ会議システム以上の体験を気軽にしてみたいという場合は、「人間アバターロボット」の採用もアリ?かもしれません。
さてさて…
では、「本物」のアバター技術の開発は今どうなっているのでしょうか?こちらも気になりますね。
全日空グループのアバターイン株式会社が開発する「newme」は、まさに本物のアバターロボットであり近い将来身近になる存在かもしれません。
底部に移動用のタイヤが付いた人間の身長くらいのポールの上端にタブレット画面がつき操作者の顔が映し出されるnewmeは見た目こそシンプルですが、そこに実際に人がいるかのような存在感があります。newme同士で対面すれば、現地にいないもの同士での会話だってできちゃいます。ショッピングモールや集客施設に複数台設置されていて、遠隔から自由に「搭乗」できる世界観は、バーチャルと現実世界を結びつけるツールであり、新たなシェリングエコノミーの形かもしれません。
Telexistance社が開発するテレイグジスタンス技術は専用の手袋を装着して操作することで、従来の視聴覚情報に加えて「触覚」という新たな感覚が追加される可能性を示してくれています。
映像はリアルタイムではなくて録画で良いので、人間同士のコミュニケーションの質を重視したいというのであれば、VRゴーグルを使った海外旅行も良いかもしれません。
株式会社ロゼッタと子会社の株式会社Travel DXが企画する「VR海外旅行体験」では、普及しつつあるVRゴーグルを使って世界各地の観光地にアクセスします。アクセス先はオンライン上なわけですが、そこには現地のホストや自分と同じ旅行者がアバターとして集まっており、ホストが事前に撮影した360度映像をみんなで共有しながら旅をすることができます。僕もすでに5箇所くらい体験してみたのですが、みんなで雑談しながら新しい知見を仮想空間で得られるという体験が新鮮でした。自動翻訳(字幕)システムがあるので、海外の方がホストでも臆せず会話することができます。従来のオンラインツアーでは、カメラワークが決まっていたり、ガイドの進行が一方向的で、気になるものがあっても注視することができないという欠点もありましたが、このサービスでは参加者にも指差し機能があります。そのため、気になったものを指差して質問することで、進行をストップしそれに関して対話を始めることもできます。
テクノロジーが発達することで、旅行にも様々な選択肢がでてきています。でも人間はやはり筋書き通りのものや、作り物だけでは物足りず、「リアリティ」や「自由度」をこれからも求めていくのだろうと思います。そうした中で、バーチャルとリアルをどううまく結びつけていけるかが面白いところかなと思います。